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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)158号 判決

東京都町田市玉川学園四丁目七番一五号

原告

有限会社ハンムスメモリアル

右代表者代表取締役

保坂シゲリ

訴訟代理人弁護士

藤沢抱一

川口均

東京都町田市中町三丁目三番六号

被告

町田税務署長 守屋隆喜

右訴訟代理人弁護士

高田敏明

右指定代理人

東亜由美

高野博

鈴木福夫

木上律子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し平成二年三月三〇日付けでした昭和六三年六月一日から平成五年五月三一日までの事業年度の法人税に係る重加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五三年六月二七日に資本金一〇〇万円で設立された不動産の賃貸業等を目的とする有限会社であり、昭和六三年六月以前の商号は「相模原クリニックビル管理有限会社」であった。

原告は、平成元年七月二一日、昭和六三年六月一日から平成元年五月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき、被告に対し、所得金額を一億二四三六万四三四二円、納付すべき法人税額を五五一四万七八〇〇円とする確定申告書を提出した。

2  原告は、右確定申告において、川崎市麻生区高石四丁目一一八番地一ほか三筆の土地上に建築所有していた鉄筋コンクリート造四階建の集合住宅(以下「本件建物」という。)の譲渡代金六億六〇〇〇万円を収益の額に算入するとともに、その売上原価として有限会社美里建設(以下「美里建設」という。)に対する業務委託料七五〇〇万円(以下「本件委託料」という。)を含む四億四五九八万〇五四三円を損金の額に計上していたが、その後、平成二年三月二七日、右売上原価から本件委託料を減算して、本件事業年度の所得金額を一億九九三六万四三四二円、納付すべき法人税額を八八二五万七三〇〇円とする修正申告をした。

3  被告は、原告が本件委託料を売上原価として損金の額に算入して確定申告をしたことは、支払の事実のない本件委託料を支払ったかのように仮装し、これに基づいて所得金額を過少に申告したものであるとして、平成二年三月三〇日付けで、原告に対し、一一五八万五〇〇〇円の重加算税を賦課する決定(以下「本件決定」という。)をした。

原告は、平成二年五月二九日、本件決定について異議申立てをしたが、平成三年五月三〇日これが棄却されたため、同年六月二七日、国税不服審判所長に審査請求をし、平成五年三月一五日これも棄却された。

4  しかし、本件委託料は真実支払われたものであり、その支払が架空であったとする本件決定には、事実の認定を誤った違法がある。

よって、原告はその取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の事実は認め、同4は争う

三  抗弁

1  原告代表者(以下「シゲリ」という。)は、平成二年五月末母親の保坂典代(以下「典代」という。)の後任として代表取締役に就任したが、原告は、もともとシゲリとその子どもである保坂モエが五〇万円ずつを出資して設立したもので、シゲリの支配する同族会社であった。

2  原告は、昭和六一年一一月一三日、有限会社清美建設(以下「清美建設」という。)との間で、本件建物の新築工事(以下「本件工事」という。)の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結したが、原告と清美建設は、昭和六二年四月九日、本件請負契約を合意解除した。

3  シゲリと清美建設の代表者平野房美(以下「平野」という。)は、右合意解除の際、原告が美里建設(代表者は平野)に対し、(一) 本件工事に関する近隣住民との交渉や苦情処理、(二) 本件建物の企画・設計依頼、(三) 建築請負業者の交代に伴う円滑な業務の引継ぎに関する業務一切(以下「本件委託業務」という。)を委託し、その対価として八〇〇〇万円の委託料を支払うことを約し、同日、八〇〇〇万円のうち七五〇〇万円を支払うとの内容が記載された委託契約書(以下「本件委託契約書」という。)を作成した。

また、平野は、同日、美里建設が原告からその委託料のうち七五〇〇万円の支払を受けたとの内容の領収書を作成し、これをシゲリに交付した。

4  しかし、右合意解除の時点においては、近隣住民との交渉や本件建築の設計業務は終了しており、美里建設がそれら業務を行う必要はなかったし、美里建設は、昭和五八年に倒産した後は事業を行っていなかった会社であって、本件委託業務を行った事実はなく、本件委託料が支払われた事実もないのであって、本件委託契約書等は、本件建物の譲渡益を圧縮すべく、原告が本件委託料を支払ったかのように仮装するために作成されたものである。

そして、原告は、右仮装したところに基づいて架空の本件委託料を損金に算入し、本件事業年度の所得金額及び法人税額を過少に申告したものであるが、本件委託料の支払がなかったことは、原告がその後修正申告をした事実によっても明らかである。

5  原告の右過少申告は、国税通則法六八条一項所定の「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に当たるから、被告は、修正申告によって新たに納付すべきことになった法人税の額三三一〇万円(一万円未満切捨て)に一〇〇分の三五を乗じた額の重加算税を原告に賦課する本件決定をしたものである。

四  抗弁に対する認否及び原告の反論

(認否)

抗弁1ないし3の事実は認めるが、同4、5は争う。

(原告の反論)

1 原告は、清美建設との間で、昭和六一年一一月一三日、請負代金を二億二〇〇〇万円とする本件請負契約(ただし、請負代金は後日三億五〇〇〇万円に変更された。)を締結し、同日、清美建設に対し着手金八〇〇〇万円を支払い、さらに同年一二月二四日、中間金一五〇〇万円を支払った。しかし、清美建設は、本件建物の敷地が狭い急傾斜地であったにもかかわらず、隣接地に十分な配慮をせずに工事を行おうとしたため、近隣住民から原告や川崎市に苦情が寄せられ、市から工事の中止を命ぜられる事態となり、結局、本件請負契約は合意解除に至った。

2 清美建設は、右合意解除に伴い、原告に対し、受領済みの請負代金九五〇〇万円を返還するとともに、違約金四五〇〇万円を支払うことを約したが、その際、平野は、合意解除までに本件建物の企画・設計依頼、建築確認申請業務などの費用のほか、下請業者への工事代金も支出していたうえ、近隣住民との交渉業務も行ったことを理由に、シゲリに対し、それらの支払や労力を償う趣旨も含め、原告から美里建設に本件委託業務を委託し、委託料として八〇〇〇万円を支払うよう要求した。

シゲリは、平野が工事現場からの建設機械の引揚げを拒否したり、近隣住民を利用して工事を妨害するような行動をとることを懸念したことから、平野の右要求に応じることとし、原告と美里建設との間で(美里建設と契約したのは平野の要求によるものである。)本件委託業務を八〇〇〇万円で委託する旨の契約(以下「本件委託契約」という。)を締結することとしたのである。

そして、原告は、右合意解除の日である昭和六二年四月九日、清美建設から手付金等九五〇〇万円の返還を受け、その中から美里建設に対し委託料の一部七五〇〇万円(本件委託料)を支払ったのである。

3 右のとおり、本件委託契約は真実存在し、本件委託料の支払も現実にされているのであって、これを仮装のものとする本件決定は、違法である。

なお、原告が修正申告をしたのは、税務調査の際、被告の職員から、休眠会社である美里建設への本件委託料の支出は損金として認められず、修正申告に応じないのであれば、その支払がシゲリに対する賞与と認定され、原告とシゲリの双方に課税がされるであろうとの説明を受けたことから、そのような事態を避けるためにしたものであって、本件委託料の支払が架空であることを認めてしたわけではない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件決定の適否について検討するに、抗弁1ないし3の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、成立に争いのない甲第七ないし第一一号証、第一五号証、第一七号ないし第二二号証、乙第一二号証の一二、原本の存在及び成立に争いのない乙第一二号証の四、五、一〇、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第七号証、第一一号証、証人平野房美の証言、原告代表者本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  昭和六一、二年当時、原告の代表取締役はシゲリの母である典代であったが、典代はすでに高齢であったため、典代の了解の下、シゲリが原告の業務全般を切り回し、典代の名で会社としての行為を行っていた。

シゲリは、昭和六一年七月及び八月の二回にわたって、清美建設から本件建物の敷地を合計二億円で購入したが、右売買契約においては、売主が地上建物の建築を請け負うといういわゆる建設条件が付されており、その趣旨に従って、原告は、同年一一月一三日、清美建設との間で、請負代金を二億二〇〇〇万円とする本件請負契約を締結し、同日、工事着手金八〇〇〇万円を支払った。清美建設は本件工事全部を藤友建設に下請けさせ、さらに藤友建設はこれを株式会社フレンドサービス(以下「フ社」という。)に下請に出した。

また、シゲリは、昭和六一年九月ころ、典代が所有する東京都町田市玉川学園四丁目所在の土地(以下「玉川学園土地」という。)の造成工事について、平野に相談したところ、藤友建設を紹介され、同社に右工事を依頼した(なお、シゲリは、昭和六一年一二月二四日、本件工事代金の中間金の名目で、右造成工事代金の一部一五〇〇万円を平野を通じて支払った。)。

3  また、清美建設は、昭和六二年二月二五日、三億六〇〇〇万円の値を付けて売り出していた川崎市多摩区東三田一丁目所在の土地及びその地上に建築中の集合住宅(以下「東三田物件」という。)をシゲリ(個人)に売り渡したが、右売買契約に際しては、シゲリとの合意により、売上代金を二億円と極めて低廉に設定したうえ、その不足分は本件請負契約の代金に上乗せすることとし、そのころ、原告と清美建設の間で、本件請負契約の代金を三億五〇〇〇万円に変更することが合意され、その旨の請負契約書が当初の昭和六一年一一月一三日付けで作成された。そして、右東三田物件の売買に関しては、シゲリから清美建設に対し、手付金一五〇〇万円及び中間金一五〇〇万円がそれぞれ支払われた。

4  ところで、本件建物の敷地は隣地に建物がある急傾斜地であったが、本件工事を下請けしたフ社が、工事施工にあたり、隣接の階段状の歩道にはみ出して建設機械等の搬入用架設進入路を設置し、十分な土留工事をせずに崖を切り崩し始めたことから、施工開始後間もなくして、近隣住民から苦情が寄せられ、川崎市から工事中止の要請がされるという事態に至った。

そこで、清美建設は、本件工事の施工を一時中止し、工事説明会を開くなど近隣住民との交渉を行い、昭和六二年三月ころには、工事再開について近隣住民の了解を得ることができた。その間、原告は、清美建設の要請に従い、近隣住民に対して合計三五〇万円の和解金を支払った。

ところが、フ社は、急傾斜地の造成という難工事に必要な技術を有していなかったことから、結局、昭和六二年三月末ころまでには、一部崖を切り崩した状態のままで本件工事から撤退してしまい、清美建設としても、本件工事の施工ができるような大手の建設業者を見付けることができず、本件請負契約上の義務を果せない状態となった。

なお、当時、藤友建設による玉川学園土地の造成工事も遅延しており、シゲリは、この点についても平野に不満を抱き、紹介者として清美建設が責任を持つよう要求していた。

5  そこで、シゲリと平野は、昭和六二年四月初旬、本件工事等の事後処理について話し合った結果、本件請負契約及び東三田物件の売買契約をいずれも合意解除することとし、清美建設は、既に支払を受けた本件工事の着手金八〇〇〇万円、東三田物件に関する手付金及び中間金の合計三〇〇〇万円を返還するとともに、本件請負契約及び東三田物件の売買契約の違約金として各一五〇〇万円(合計三〇〇〇万円)を支払う旨(合計一億四〇〇〇万円)合意するとともに、玉川学園土地の造成工事については、改めて清美建設が代金二〇〇〇万円で典代から請け負うこととなった。

6  ところが、シゲリは、本件建物を転売した際原告に生ずる譲渡益を少なくする経理操作をするため、多額の業務委託料を支払ったかのような書類を整えることとし、次の五通の書面を用意したうえ、昭和六二年四月九日ころ、自宅に平野を呼び出し、それらの書面の作成に応じるよう求めた。

(一)  清美建設が、昭和六二年四月九日、本件請負契約の合意解除に伴い、原告に対し、既払分の九五〇〇万円を返還したこと及び違約金四五〇〇万円の支払を約したことを記載した、同日付け和解書(甲第九号証)

(二)  原告と美里建設が、昭和六二年四月九日、委託料を八〇〇〇万円とする本件委託契約を締結した旨を記載した、同日付け本件委託契約書(乙第一二号証の一〇)

(三)  美里建設が、昭和六二年四月九日、原告から七五〇〇万円の本件委託料を受領した旨を記載した、同日付け領収書(甲第二二号証)

(四)  清美建設が、昭和六二年四月一〇日、シゲリから東三田物件の売買代金の中間金二〇〇〇万円を受領した旨を記載した、同日付け領収書(甲第二一号証)

(五)  清美建設が、昭和六二年四月二〇日、東三田物件の売買契約の合意解除に伴い、シゲリに対し、既払分の五〇〇〇万円(手附金・中間金)の返還及び違約金五〇〇〇万円の支払を約したことを記載した、同日付け和解書(甲第一〇号証)

7  平野は、シゲリから、右五通の書類の作成に応じたとしても、清美建設が原告及びシゲリに支払うことになる金額は同じ一億四〇〇〇万円であるなどと言われ協力を求められたことから、シゲリの意図する税金対策に協力することにし、右五通の書類に清美建設又は美里建設名義の記名押印をした。

8  なお、美里建設は、昭和四八年に設立された平野のみを社員とする一人会社であり、不動産の販売、建物建築事業等を行っていたが、昭和五八年に倒産した後は全く事業活動を行っていなかった。

また、清美建設は、本件請負契約の合意解除までに、本件建物の設計及び建築確認申請手続、近隣住民との交渉という業務を終えており、合意解除後にそのような業務を行ったことはなかったし、後に本件工事を行った業者に対し工事の引継ぎをしたようなこともなかった。

9  清美建設は、昭和六二年六月八日、シゲリに対し、前記5の合意に基づく一億四〇〇〇万円のうち八〇〇〇万円を支払ったが、残額六〇〇〇万円については、シゲリや典代が、工事の完了した玉川学園土地の造成代金を支払おうとしなかったため、その支払を拒んでいたところ、原告及びシゲリは、昭和六二年一〇月一四日、右6(一)及び(五)の書類による合意を前提に、清美建設及び仲介業者の有限会社松美家商事(以下「松美家商事」という。)を被告として、本件請負契約に係る違約金四五〇〇万円、東三田物件の売買契約に係る違約金五〇〇〇万円のうち二〇〇〇万円の合計六五〇〇万円の支払を求める損害賠償請求訴訟(横浜地方裁判所川崎支部昭和六二年(ワ)第四五五事件)を提起した。

結局、原告、シゲリ、清美建設、松美家商事及び利害関係を有する典代らは、平成元年一〇月九日、清美建設が、原告に対し本件請負契約に係る和解金一八〇〇万円を、シゲリに対し東三田物件の売買契約に係る和解金二〇〇〇万円を支払うこと、原告が松美家商事に対し和解金四〇〇万円を支払うこと、他には互いに債権債務関係がない旨を確認することを内容とする訴訟上の和解をした。

三  以上の事実が認められるところ、右認定に反するシゲリの供述の信用性について検討する。

1  シゲリは、供述書(甲第三三号証)及び原告代表者本人尋問において、大要次のとおり供述している

(一)  原告は、本件請負契約の合意解除を行う際、平野の強い要求により、清美建設が本件工事に関してした支出等を償うとともに、解除後における建設機械の引上げ等の工事引継業務の円満な遂行のために、やむをえず要求を呑んで本件委託契約を締結したものである。

(二)  前記和解書等の五通の書類は事実の債権債務関係を記載したものであり、本件委託料の支払は虚偽のものではない。

(三)  シゲリと平野は、本件請負契約の合意解除に伴って清美建設が原告に返還すべき工事代金九五〇〇万円が現実に返還されたことにし、原告が、その九五〇〇万円の中から、美里建設に本件委託料七五〇〇万円、清美建設に東三田物件の中間金二〇〇〇万円をそれぞれ支払ったことにしたものである。

2  しかしながら、シゲリの右供述は、次の点からみて、採用できないものといわざるをえない。

(一)  本件委託契約書に記載された本件委託業務の大半は、既に履行済みで、清美建設の支出ないし負担の内訳が判明していると考えられるのに、契約書中にはその委託料の内容が一切記載されていないばかりか、証拠上もその支出等の詳細が不分明であり、八〇〇〇万円という委託料がどのような根拠に基づいて定められたものか、全く明らかでない。

(二)  前記認定のように、清美建設の不手際で本件工事が中止され、本件請負契約の合意解除に至ったものであるにもかかわらず、原告において、何故、八〇〇〇万円もの高額な委託料を支払うという不利益な本件委託契約を締結する必要があったのか極めて不可解、不自然であるといわなければならない。シゲリは、その供述書及び原告代表者本人尋問において、その理由として、平野の望む本件委託契約の締結を断れば、平野から、工事現場に置いてあった建設機械の引揚げを拒否されたり、近隣住民を利用した工事妨害をされるおそれがあったことから、やむなく平野の要求に従った旨供述するが、本件全証拠を検討しても、平野がそのような厭がらせをすることが懸念された事情は何ひとつ窺われない。

むしろ、前掲甲第一一号証、成立に争いのない甲第一四号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一三号証、証人平野房美の証言によって原本の存在及び真正な成立が認められる甲第一二号証並びに同証言によれば、平野は、昭和六二年二月、シゲリから、玉川学園土地の造成工事の遅延を責められ、その早期完了を保証しこれを担保する等の趣旨で、シゲリに対し、その旨を記載した念書を差し入れるとともに、清美建設が所有する土地の権利証、白紙委任状、印鑑登録証明書まで預託していたこと、これら預託書類は、本件請負の合意解除の際にもシゲリから平野に返還されず、これら書類が返還されたのは昭和六二年六月になってからであったことが認められるのであって、右合意解除の当時、シゲリが平野との関係で弱い立場に立たされていたとは考えられず、そのような状況の下で、シゲリが高額な委託料の支払に応じなければならなかったとするのは極めて不合理、不自然である。

(三)  前記認定のとおり、昭和六一年一二月二四日の一五〇〇万円の支払(甲第一八号証)は、本件工事代金の中間金の名目で支払われた玉川学園土地の造成工事代金の一部であり(このことは、原告も訴状において当初自認していたところである。)、本件請負契約に基づいて原告が支払った工事代金は、契約当初の八〇〇〇万円だけであるから、本件請負契約の合意解除により既払の工事代金九五〇〇万円が返還されたとするのは不自然である。

(四)  また、前記認定のとおり、本件請負契約と東三田物件の売買契約は同時に合意解除に至ったものであるから(東三田物件の売買代金は本件工事代金との兼合で安く設定されていたため、仮に本件請負契約だけが解除された場合には、清美建設は莫大な損失を被ることになる。)、本件請負契約だけが先に合意解除され、清美建設から九五〇〇万円の返還金の中二〇〇〇万円(すなわち、本件委託料七五〇〇万円を差引計算した残額)が、原告から清美建設に東三田物件の売買の中間金として支払ったものとされたうえ、その直後の東三田物件の売買契約の合意解除の際に、この二〇〇〇万円が返還の対象とされるということは、正常な取引の経過としては到底考えられないところである。

3  右のとおりであるから、前記認定に反するシゲリの供述書及び原告代表者本人尋問に対する供述は採用し難く、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

四  前記認定の事実によれば、原告は、本件事業年度の確定申告書を提出した際、本件委託料を、本件建物の譲渡収入に係る売上原価に算入することにより、所得金額を過少に申告したものであるところ、その過少申告は、典代の了解の下に原告の業務全般を切り回していたシゲリにおいて、本件委託契約が締結された事実も本件委託料が支出された事実もないのに、平野の協力を得てそれら事実があったかのような本件委託契約書及び本件委託料の領収書を作成し、その支出を帳簿に計上して行われたものであるから、国税通則法六八条一項所定の「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。

したがって、原告が修正申告によって新たに納付すべきこととなった法人税額を基礎として国税通則法六八条一項に基づき算定された重加算税の額を賦課した本件決定は、適法である。

五  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 橋詰均 裁判官 武田美和子)

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